映画『シン・ウルトラマン』を観終わってからの困惑の日々の中で、高い評価をする一方で、日本の特撮映画の現状と将来に、多少なりとも不安を感じているので、その気持ちを書き留めておこうと思ういます。
映画『シン・ウルトラマン』に見る日本特撮映画の終わりのはじまり
映画『シン・ウルトラマン』を観終わった直後の戸惑い、その後パンフレットやデザインワークスに書き残された樋口真嗣監督や庵野秀明総監修のウルトラマンに対する思いと、本作への取り組みの気持ちなどを知るにつけて感じた思いや、ストーリーに隠された「人類のために光の星の掟さえもやぶる裏切り者としてのウルトラマンネピア」を見つけてしまったことから、本作の物語の深さを知ることで傑作である確証を掴んだ。
しかしながら、そんな日本でも有数のビックコンテンツである「ウルトラマン」の新作劇場映画ですら、予算の壁があり、つくれたものとつくれなかったものの数々を思うと、日本における特撮映画の限界を感じてしまいます。もはやハリウッドで作られる日本生まれのコンテンツ「ゴジラ」や、どうみてもウルトラマンに登場するジェットビートルをもとにしていると思われるマーベル作品に登場するクインジェットやバスなどの乗り物などなど、日本で生まれてハリウッドで大人向けのコンテンツに作り替えられる日本のコンテンツ界隈。映画『シン・ウルトラマン』というビッグタイトルにかけられる製作費は、『シン・ゴジラ』の10億円を下回り、外国のネット配信ドラマの1エピソードよりも低予算であるかのごとく伝えられている昨今。一昔前なら、映画制作にかかる費用/金額すらも宣伝文句のひとつとして使っていた日本映画が、シン・ゴジラやシン・ウルトラマンではあえて公表しない/公表できない現実があるのではないかと勘繰ってしまったりもします。
日本映画の制作費ランキング。
こんなツィートもあるようですね。裏がとれていないので参考までに。
今回の『シン・ウルトラマン』は、あの『シン・ゴジラ』を超えた金額にはなっていないことを考えると、10億円代。つまり実写版『ヤッターマン』の半額程度かもしれません(詳しい製作費に関する情報求む→コメント欄にご記入ください)。
そんな状況の中で制作されたシン・ウルトラマンを思うと、この内容は仕方がないのかもしれません。
かつてのウルトラマンシリーズにおいても、限りある予算の中での製作陣の知恵を働かせながら、あれだけの偉大な作品群を作ってきたことを思うと、日本における特撮映画のポジションが、やはりどうしても低くなりがちと言わざるを得ません。
たぶん、そんなことをいち観客の立場からのコメントとして書いたところで…『シン・ゴジラ』のあのシーンのようになるのかもしれません。
「そんなことは、わかっているよ。泉ちゃんだって我が国の立場をわかっているだろう」
「ですが総理、自国の利益のために他国に犠牲を強いるのは覇道です。」
「我が国では、人徳による王道を行くべしということか」
「総理、そろそろ好きにされてはいかがでしょう」
映画『シン・ゴジラ』より
映画『シン・ウルトラマン』に欠けていたこととは?
そんな限られた予算の中で何が無かったのか。その無かったことが映画を見終わった直後の感想に戸惑うこととなった結果でもあるので、少しまとめてみたいと思います。
ウルトラマンシリーズを構成する要素としては、次の6つ
- ヒーロー
- 怪獣
- 宇宙人
- 防衛チーム(大きな組織の設定/小さな現場のチーム)
- 防衛チームのメカ、火器/武器、その他の装備(通信機などの小道具)
さらに加えてれば、
- マスコット的存在/AIサポート/アンドロイド
あたりが揃えば、ウルトラシリーズとしては完璧だったのではないかなぁと思います。
ヒーロー | ウルトラマン | シン・ウルトラマン |
怪獣 | 怪獣 | 禍威獣/巨大不明生物/敵性大型生物/生物兵器 |
宇宙人 | 宇宙人 | 外星人/星間戦争後の協定の存在/光の星の裁定 |
防衛チーム | ||
大きな組織の設定 | 国際科学警察機構 | 防災庁 |
小さな現場チーム | 科特隊: 科学特別捜査隊 | 禍特対: 禍威獣特設対策室 |
防衛メカ | ||
乗り物 | ジェットビートル他 | トヨタランドクルーザー |
火力/武器 | スーパーガン他 | 拳銃 |
装備 | 通信機他 | スマートフォン |
その他のメカ | イデ隊員が各種開発 | リモート会議用のVRゴーグル |
マスコット | 星野少年 | KATO太くん |
こう書き出してみると、明らかに映画『シン・ウルトラマン』においては地球防衛チームの描き方が人が中心になっており、科学技術の粋を集めた乗り物も武器もハイテクメカも登場しませんでした。『シン・ウルトラマン』においては、最初の現地作戦本部の各自が持ち込むヘビーデューティー仕様のパソコン、スマートフォン、作戦基地においてもそれらしいハイテクなパネルは描かれていませんでした。
また乗り物においても、ジェットビートルは登場せず、禍特対メンバーの移動にはSSSPのトヨタランドクルーザーか、自衛隊の車両、自衛隊のヘリコプター(チヌーク)でしたね。マーベルの『エージェント・オブ・シールド』のクインジェットのような乗り物の登場も期待したのですが、残念ながら出ませんでした。
そんな「メカ要素」不足を当初から感じていたからこそ、庵野秀明総監修は作戦本部にあれだけのミニチュアメカを置くことで、なんとかウルトラマンコンテンツとしての最低限要素を確保したのではないかなぁ〜とすら思ってしまいます。
それと、ウルトラマンがゼットンに挑む前に残したUSBメモリ。その解析のシーンがVRゴーグルをかけた滝の姿だけ…というのは、どうなんだろう。せめてゴーグルでどんな会議のシーンを見ているのかを表現したり、VRゴーグルで見えている世界にはホログラフィックなディスプレイがあって、アイアンマンのトニー・スタークが空間で設計したような、エージェント・オブ・シールドのフィッツとシモンズが同じようなホログラフィックな3D空間で設計したようなシーンが欲しかったように思います。
シン・ウルトラマン デザインワークスをみると、庵野秀明総監修は、シン・ウルトラマンで3部作構成を考えていたようです。
- シン・ウルトラマン
- 続シン・ウルトラマン
- ウルトラセブン
たぶんこれが実現するのであれば、最初の禍特対の装備は現在の世の中に存在するものを基本とし、続シン・ウルトラマンの中では2022年の今からみてもハイテクな乗り物や装備を持ち込み、シン・ウルトラセブンでTDF(地球防衛軍)やハイテク装備の充実したウルトラ警備隊を描くことで、ウルトラシリーズの基本要素を補完する計画ではなかったかなぁ〜とすら思っています。
今回のシン・ウルトラマンは、いわば「007シリーズ」でいえばジェームズ・ボンドも悪役も美女も登場するのに、Qが作ったハイテク自動車も仕掛けをほどこした秘密兵器も登場なし、「バットマン」でいえば洞窟の中でアルフレッドが開発したバットカーや秘密兵器が登場しないバットマン…みたいな感じだったかもしれません。
それを、邦画制作ランキング10位の実写版『ヤッターマン』のほぼ半額程度の制作費でつくる…ということに、作り手として何を思ったのか…いつか、どこかで語られることを期待します。
ということで、すでに日本の特撮映画は、その製作費においてもすでに終わりがはじまり、もしかした特撮映画に限らず、他の作品…特に時代劇作品の減少などをみると、単に人気がないから〜という理由よりも、むしろ製作費を捻出できない日本の映画製作事情が大きく影響しているのではないかなぁ〜と思ったりもします。
新たな特撮映画づくり
しかしそんな中で、最近のYouTubeなどにアップロードされているいわゆるファンムービーのクォリティの高さに、日本の特撮作品の未来を感じていたりします。新しい特撮映画づくりはすでに始まっており、2022年におけるファンムービーは庵野秀明氏がまだ学生だったころに撮った「帰ってきたウルトラマン マットアロー1号発進命令」みたいなポジションなのかもしれません。すでに未来の庵野秀明はパソコンのCGソフトでファンムービーをつくり、YouTubeの中で作品を公開しているように思うのです。
昨今バズワードにもなっている「メタバース」が、日本における特撮コンテンツの新たな局面を切り開くのではないかなとも思っています。
庵野秀明監督が社長の株式会社カラーにも採用された無料で使える3DCGソフトの「Blender」や、おなじむ無料で使えるゲームプラットフォームの「Unity」やゲーム「フォートナイト」で遊泳なEPIC GAME社のゲームプラットフォーム「Unreal Engine」などが、メタバースを作り上げるツールとしてどんどんハイクォリティになっています。また、国土交通省などが商用非商用を問わず無料で提供している都市の建物データなどを使うことで、まったくモデリングすることなく都市のCGをつくることができたりもします。
人物などの動きをデジタルデータ化したモーションキャプチャーデータも無料で使えるものがかなり数がオープンになっていたりもします。
【blender】リアルな都市の作り方!(~PLATEAUを用いる方法~)(ボイスピーク解説)
国土交通省のPLATEAU
このデータが無料で使えるのは全くの驚きです!!
【シンゴジラ風】blenderの物理演算を使った大規模なビル破壊(実験) blender building destruction
モデリングだけでなく、無料3DCGソフトのBlenderでこうしたビルが破壊されるCGも造れてしまうのです。
キャラクターアニメーションを一発作成!Blender3.0 × Adobe Mixamo – 13分40秒あたりから
3DCGソフトを使い始めるとわかるのだが、すでにかなりの物体が3Dデータとして無料で使えるものがインターネット上には溢れていたりします。本当に無いものだけを自分でモデリングするだけで、かなりのクォリティのファンムービーは作れてしまう…しかも「ひとりでも」つくれる時代なのです。
今後、メタバース関連のツールやデータ、爆発などのエフェクトが蓄積されるにつれて、CG製作のコストはどんどん下がっていくのではないかと思うのです。
ウルトラマン、仮面ライダー、スーパー戦隊を越える新しい特撮ジャンル
そんな環境がどんどん整っていくなかで、必要なのはもちろん人間の創造性です。
ウルトラマン、仮面ライダー、スーパー戦隊、ゴジラ…などの先人たちが残してくれた大いなる財産も大切にしながら、やはり新しい特撮ジャンルの創造も必要だと思います。この先、庵野秀明監督による「シン・仮面ライダー」や白石和彌監督による「仮面ライダーBLACK SUN」、先日エキストラ募集情報で明らかになった山崎貴監督による「超大作怪獣映画」が作られる先に、どんな日本特撮作品がまっているのか、とても楽しみである一方で、怪獣ものヒーローものに加えて、日本ではなかなか難しいスペースオペラ作品やまったく新しい特撮ジャンルの作品に、生きている限り出会いたいなぁ〜と思っています。
頑張れ、日本特撮!!
このブログは、いつもそんな思いをもった昭和生まれの特撮ファンが書いています。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
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関連リンク
- 映画公式サイト:https://shin-ultraman.jp
- 映画公式Twitter:https://twitter.com/shin_ultraman
いわゆる昭和特撮で少年時代を過ごし、平成・令和となった今、まさに自分はあの頃未来の世界と描かれた時代にいるはずなのに…なぜ宇宙旅行もままならず、海底牧場もできず…チューブの中を走っているはずの列車は無く…という2020年になろうとする時代の中で感じていたりします。せめて映像の世界だけはかつて夢見た未来を描いてくれるのではないだろうか。CG全盛の時代だし、CGは嫌いじゃないし(むしろ好きだし)、でもそんな中でも昭和特撮大好きオーラを出し続けていたいと思います。